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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 民間航空の安全に対する不法な行為の防止に関する条約(民間航空不法行為防止条約,モントリオール条約)

[場所] モントリオール
[年月日] 1971年9月23日作成,1973年1月26日効力発生,1974年5月17日国会承認
[出典] 外務省条約局,主要条約集(昭和52年版),1589−1601頁.
[備考] 
[全文]

民間航空の安全に対する不法な行為の防止に関する条約

昭和四十六年九月二十三日 モントリオールで作成
昭和四十八年一月二十六日 効力発生
昭和四十九年五月十七日 国会承認
昭和四十九年六月十二日 加入書寄託
昭和四十九年六月十九日 公布及び告示(条約第五号及び外務省告示第一一三号)
昭和四十九年七月十二日 我が国について効力発生

この条約の締約国は、

民間航空の安全に対する不法な行為が人及び財産の安全を害し、航空業務の運営に深刻な影響を及ぼし、また、民間航空の安全に対する世界の諸国民の信頼を損なうものであることを考慮し、

そのような行為の発生が重大な関心事であることを考慮し、

そのような行為を抑止する目的をもつて犯人の処罰のための適当な措置を緊急に講ずる必要があることを考慮して、

次のとおり協定した。

第一条

不法かつ故意に行う次の行為は、犯罪とする。

(a) 飛行中の航空機内の人に対する暴力行為(当該飛行中の航空機の安全を損なうおそれがあるものに限る。)

(b) 業務中の航空機を破壊し、又は業務中の航空機に対しその飛行を不能にする損害若しくは飛行中のその安全を損なうおそれがある損害を与える行為

(c) 手段のいかんを問わず、業務中の航空機に、当該業務中の航空機を破壊するような装置若しくは物質若しくは当該業務中の航空機に対しその飛行を不能にする損害若しくは飛行中のその安全を損なうおそれがある損害を与えるような装置若しくは物質を置き、又はそのような装置若しくは物質が置かれるようにする行為

(d) 航空施設を破壊し若しくは損傷し、又はその運用を妨害する行為(飛行中の航空機の安全を損なうおそれがあるものに限る。)

(e) 虚偽と知つている情報を通報し、それにより飛行中の航空機の安全を損なう行為

次の行為も、犯罪とする。

(a) 1に定める犯罪行為の未遂

(b) 1に定める犯罪行為(未遂を含む。)に加担する行為

第二条

この条約の適用上、

(a) 航空機は、そのすべての乗降口が乗機の後に閉ざされた時から、それらの乗降口のうちいずれか一が降機のために開かれる時まで、また、不時着の場合には、権限のある当局が当該航空機並びにその機内の人及び財産に関する責任を引き継ぐ時まで、飛行中のものとみなす。

(b) 航空機は、ある特定の飛行のため地上業務員又は乗組員により当該航空機の飛行前の準備が開始された時から、着陸の後二十四時間を経過する時まで、業務中のものとみなす。この業務の期間は、いかなる場合にも、当該航空機が(a)の規定によつて飛行中とされる全期間に及ぶ。

第三条

各締約国は、第一条に定める犯罪行為について重い刑罰を科することができるようにすることを約束する。

第四条

この条約は、軍隊、税関又は警察の役務に使用される航空機については適用しない。

この条約は、第一条1(a)から(c)まで及び(e)に定める犯罪行為については、当該航空機の飛行が国際飛行であるか国内飛行であるかを問わず、次のいずれかの場合にのみ、適用する。

(a) 当該航空機の実際の又は予定された離陸地又は着陸地が当該航空機の登録国の領域外にある場合

(b) 犯罪行為が当該航空機の登録国以外の国の領域内で行われた場合

この条約は、2の規定にかかわらず、第一条1(a)から(c)まで及び(e)に定める犯罪行為については、犯人又は容疑者が当該航空機の登録国以外の国の領域内で発見された場合にも、適用する。

この条約は、第九条第一文の締約国に関する限り、第一条1(a)から(c)まで及び(e)に定める犯罪行為については、2(a)に規定する離陸地と着陸地とが同一の国の領域内にあり、かつ、その国が第九条第一文の締約国のいずれか一である場合には、適用しない。ただし、その国以外の国の領域内で犯罪行為が行われ又は犯人若しくは容疑者が発見されたときは、この限りでない。

この条約は、第一条1(d)に定める犯罪行為については、当該航空施設が国際航空に使用されている場合にのみ、適用する。

2から5までの規定は、第一条2に定める犯罪行為についても適用する。

第五条

いずれの締約国も、次の場合には、犯罪行為につき自国の裁判権を設定するために必要な措置をとる。

(a) 犯罪行為が当該締約国の領域内において行われた場合

(b) 犯罪行為が当該締約国において登録された航空機に対しその機内で行われた場合

(c) 機内で犯罪行為の行われた航空機が容疑者を乗せたまま当該締約国の領域内に着陸する場合

(d) 犯罪行為が、当該締約国内に主たる営業所を有する賃借人若しくは主たる営業所を有しないが当該締約国内に住所を有する賃借人に対して乗組員なしに賃貸された航空機に対し又はその機内で行われた場合

容疑者が領域内に所在する締約国は、1(a)、(b)、(c)又は(d)の場合に該当する他のいずれの締約国に対しても第八条の規定に従つてその容疑者を引き渡さない第一条1(a)から(c)までに定める犯罪行為及びこれらの犯罪行為に係る同条2に定める犯罪行為につき自国の裁判権を設定するため、必要な措置をとる。

この条約は、国内法に従つて行使される刑事裁判権を排除するものではない。

第六条

犯人又は容疑者が領域内に所在する締約国は、状況によつて正当であると認める場合には、その者の所在を確実にするため抑留その他の措置をとる。この措置は、当該締約国の法令に定めるところによるものとするが、刑事訴訟手続又は犯罪人引渡手続を開始するために必要とする期間に限つて継続することができる。

1の措置をとつた締約国は、事実について直ちに予備調査を行う。

1の規定に基づいて抑留された者は、その国籍国の最寄りの適当な代表と直ちに連絡をとるための援助を与えられる。

いずれの国も、この条の規定に基づいていずれかの者を抑留する場合には、前条1(a)、(b)、(c)又は(d)の場合に該当する国、抑留された者の国籍国及び適当と認めるときはその他の利害関係国に対し、その者が抑留されている事実及びその抑留が正当とされる事情を直ちに通告する。2の予備調査を行つた国は、その結果をこれらの国に対して直ちに報告するものとし、かつ、自国が裁判権を行使する意図を有するかどうかを明示する。

第七条

容疑者が領域内で発見された締約国は、その容疑者を引き渡さない場合には、当該犯罪行為が自国の領域内で行われたものであるかどうかを問わず、いかなる例外もなしに、訴追のため自国の権限ある当局に事件を付託する義務を負う。その当局は、自国の法令に規定する通常の重大な犯罪の場合と同様の方法で決定を行う。

第八条

犯罪行為は、締約国間の現行の犯罪人引渡条約における引渡犯罪とみなす。締約国は、相互間で将来締結されるすべての犯罪人引渡条約に犯罪行為を引渡犯罪として含めることを約束する。

条約の存在を犯罪人引渡しの条件とする締約国は、自国との間に犯罪人引渡条約を締結していない他の締約国から犯罪人引渡しの請求を受けた場合には、随意にこの条約を犯罪行為に関する犯罪人引渡しのための法的基礎とみなすことができる。その犯罪人引渡しは、その請求を受けた国の法令に定めるその他の条件に従うものとする。

条約の存在を犯罪人引渡しの条件としない締約国は、犯罪人引渡しの請求を受けた国の法令に定める条件に従い、相互間で、犯罪行為を引渡犯罪と認める。

各犯罪行為は、締約国間の犯罪人引渡しに関しては、当該犯罪行為が行われた場所のみでなく、第五条1(b)、(c)又は(d)の規定に従つて裁判権を設定すべき国の領域内においても行われたものとみなす。

第九条

共同の又は国際的な登録が行われている航空機を運航する共同の航空運送運営組織又は国際運営機関を設立する二以上の締約国は、適当な方法により、当該航空機のそれぞれにつきそれらの締約国のうちいずれか一国を、この条約の適用上裁判権を有しかつ登録国とみなされるものとして指定するものとし、これを国際民間航空機関に通告する。国際民間航空機関は、その通告をすべての締約国に通知する。

第十条

締約国は、国際法及び国内法に従い、第一条に定める犯罪行為を防止するためあらゆる実行可能な措置をとるように努力する。

第一条に定める犯罪行為の一が行われたために飛行が遅延し又は中断した場合には、当該航空機又はその旅客若しくは乗組員が領域内に所在する締約国は、その旅客及び乗組員ができる限り速やかに旅行を継続することができるように便宜を与えるものとし、また、占有権を有する者に対し遅滞なく当該航空機及びその貨物を返還する。

第十一条

締約国は、犯罪行為についてとられる刑事訴訟手続に関し、相互に最大限の援助を与える。この場合において、援助を求められた締約国の法令が適用される。

1の規定は、刑事問題に関する相互援助を全面的又は部分的に規定する現行の又は将来締結される二国間又は多数国間の他の条約に基づく義務に影響を及ぼすものではない。

第十二条

第一条に定める犯罪行為の一が行われるであろうと信ずるに足りる理由を有する締約国は、国内法に従い、第五条1(a)、(b)、(c)又は(d)の場合に該当する国となるであろうと認める国に対し、自国が有する関係情報を提供する。

第十三条

各締約国は、国内法に従い、できる限り速やかに、次の事項に関して有する関係情報を国際民間航空機関の理事会に通報する。

(a) 犯罪行為の状況

(b) 第十条2の規定に従つてとつた措置

(c) 犯人又は容疑者に対してとつた措置、特に犯罪人引渡手続その他の法的手続の帰結

第十四条

この条約の解釈又は適用に関する締約国間の紛争で交渉によつて解決することができないものは、それらの締約国のうちいずれか一国の要請によつて仲裁に付託される。紛争当事国が仲裁の要請の日から六箇月以内に仲裁の組織について合意に達しない場合には、それらの紛争当事国のうちいずれの一国も、国際司法裁判所規程に従つて国際司法裁判所に紛争を付託することができる。

各国は、この条約の署名若しくは批准又はこの条約への加入の時に、1の規定に拘束されないことを宣言することができる。他の締約国は、そのような留保をした締約国との関係において1の規定に拘束されない。

2の規定に基づいて留保をした締約国は、寄託国政府に対する通告によつていつでもその留保を撤回することができる。

第十五条

この条約は、千九百七十一年九月八日から二十三日までの間モントリオールにおいて開催された航空法に関する国際会議(以下「モントリオール会議」という。)に参加した国による署名のため、千九百七十一年九月二十三日にモントリオールにおいて開放するものとし、千九百七十一年十月十日後は、モスクワ、ロンドン及びワシントンにおいてすべての国による署名のため開放しておく。この条約が3の規定に従つて効力を生ずる前にこの条約に署名しない国は、いつでもこの条約に加入することができる。

この条約は、署名国によつて批准されなければならない。批准書及び加入書は、この条約により寄託国政府として指定されるソヴィエト社会主義共和国連邦、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国及びアメリカ合衆国の政府に寄託する。

この条約は、モントリオール会議に参加した十の署名国による批准書の寄託の日の後三十日で効力を生ずる。

この条約は、3の署名国以外の国については、3の規定によるこの条約の効力発生の日又はその批准書若しくは加入書の寄託の日の後三十日目の日のいずれか遅い日に効力を生ずる。

寄託国政府は、すべての署名国及び加入国に対し、各署名の日、各批准書又は各加入書の寄託の日、この条約の効力発生の日及び他の通知を速やかに通報する。

この条約は、その効力発生の後直ちに寄託国政府が国際連合憲章第百二条及び国際民間航空条約(千九百四十四年シカゴ)第八十三条の規定に従つて登録する。

第十六条

いずれの締約国も、寄託国政府にあてた通告書によつてこの条約を廃棄することができる。

廃棄は、寄託国政府がその通告を受領した日の後六箇月で効力を生ずる。

以上の証拠として、下名の全権委員は、各自の政府から正当に委任を受けて、この条約に署名した。

千九百七十一年九月二十三日にモントリオールで、それぞれが英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語による真正な四本文から成る原本三通を作成した。