本書は、中国江西省鄱陽湖の鵜飼い漁師たちが自然環境や国家政策の急激な変化のなか、柔軟な対応によって生き延びていくメカニズムを明らかにした民族誌です。
本書で扱っているテーマは一見地味に感じられるかもしれません。
しかし、中国の経済発展とその環境へのインパクトが世界中で注目を浴びている近年、自然・社会環境が予想を上回るスピードで変貌する長江中流域において、環境の変化をもっともダイレクトに受けている国内の人びとの真の姿を実証的なデータを通して描くことによって、文献調査・統計に依存した従来の研究では得られなかった知見を得ることは重要であると思います。
とりわけ、本書で明示したような、中国各地の鵜飼い漁をめぐるエクステンシブな調査と、一か所の漁村でのインテンシブな調査とを組み合わせ民族誌はこれまでありませんでした。
調査ではインフォーマントに対する聞き取りにより、漁の技術や知識、村落の歴史的な変化を記述分析しました。このような「文系の視点」に加えて空間情報技術などの方法論も融合させることで漁師たちの生き方を多角的に理解することを心がけました。
本書では、最後に漁師たちの生計維持のメカニズムを、人類学や社会学の議論を乗り越えるかたちでまとめました。また、中国で鵜飼い漁が生業として成り立つ背景としての文化や、動物と人間とのかかわりについても新たな見解を述べました。
現代中国を生きぬく人びとの姿をつぶさに描いた本書を出版することで、日本人による多面的な中国理解を促すことができれば幸いです。
(著者:卯田宗平)
目次等、詳しい情報は「教員の著作コーナー」に掲載した記事をご覧ください。