News

2023年度 第4回 定例研究会 「我妻榮氏原稿『中華民国民法物権(下)』の整理について」
髙見澤 磨 教授 最終研究発表会が開催されました

報告

 東京大学・東洋文化研究所は、著名な民法学者、我妻榮氏収集の書籍のほか、関連するその他の資料を所蔵する。書籍の形態をとるものは目録がすでにあり(『我妻栄先生旧蔵アジア法制関係文献資料目録』(1982))、書籍を閲覧・利用することができる。しかし、それ以外の原稿・文書・カードなどの形態のものの多くは未整理であり、すこしずつ整理を進めてきた。これらのうちとりわけ重要なのが、『中華民国民法物権(下)』として出版されるはずであった原稿である。この原稿が出版されていたならば1930年代から1946年までに刊行された中華民国法制研究会によるシリーズの1冊となっていたはずである。現在のところ、原稿のコピーは書庫にあり、閲覧可能な状態である(但し、複写漏れの欠頁がある)。また、原稿からの入力作業は終了し、入力した原稿の正誤の確認も一応終わっている。現段階での知見(推測を含む)と今後の作業とについて報告を行った。

 

 

 

 現段階での知見としては、以下のことがらがある。

1,(上)は、我妻榮・川島武宜共著となっていた。(下)については、原稿の所在や整理の痕跡、満洲国民法への言及などから、主たる著者は我妻ではないかと思われる。但し、序に「著者等」となるので、出版に際しては、(上)と同様に我妻・川島共著とすべきであろう。

2,中華民国法制研究会の成果全般に言えることだが、中華民国法制に対する評価は高い。

3,各条ごとの註釈書の形態をとるが、説明や比較の対象は、日本法、ドイツ法、スイス法が主たるものである。典権については、日本・ドイツ・スイスにはない担保物権(質権や買い戻し条件付き売買に似ているが、慣習由来の「典権」として規定している)であり、満州国民法に言及する。また、中国の慣習にも言及する。

 

 今後の作業としては、以下のようなことを考えている。

1,まずは日本での出版を進める。 日本語としてテキストが固まった時点で、中国の研究者に翻訳を依頼し、中国での出版を進める。

2,その他の我妻関係資料は目録を作成し、図書に準じて利用可能にする。

3,404号室にある歴代5人ほどの所の先人が残した資料の整理は、2024年4月以降の現役の所員にお願いすることになる。

4,このような資料の整理や出版のほかに、これらの資料からうかがえる、中華民国民法に対する日本の法学者の高い評価→その研究に基づく満洲国民法起草作業→これらの東アジアにおける20世紀の立法作業の成果と我妻民法学とが韓国民法に与えた影響という流れがあるということを仮説として研究を進める。また、関連して京城帝国大学法文学部における民法学についても検討する。

 

 なお、主要な参考文献としては、以下のものを挙げる。

・我妻榮・川島武宜共著『中華民国民法物権(上)』中華民国法制研究会、1941年

・滋賀秀三「清朝の法制」(坂野正高・田中正俊・衛藤瀋吉編『近代中国研究入門』東京大学出版会、1974年)

・西英昭「中華民国法政研究会について――基礎情報の整理と紹介――」(中国社会文化学会『中国 社会と文化』2006年)

・鄭鐘休『韓国民法典の比較法的研究』創文社、1989年。 小口彦太「満洲国民法典の編纂と我妻榮」(池田温・劉俊文編『日中文化交流史叢書 二  法律制度』(大修館書店、1997年)

 

 以上のような報告を行った。

 

  報告者は、これまでにも、資料整理が一定程度進むたびに、以下のような報告を行ってきた。あわせて参照されたい。

(1)「東京大学東洋文化研究所「我妻榮氏旧蔵資料」新発見資料紹介(『創文』473号、2005年3月1日、11-14頁)

(2)「「新」発見の「故我妻榮氏寄贈」資料」(清末・中華民国期土地文書)簡介」(孝忠延夫・鈴木賢編『北東アジアにおける法治の現状と課題 鈴木敬夫先生古稀記念』(成文堂、アジア法叢書28,2008年11月17日、93-116頁)。(文書20件のうち8件分)

(3)「日本民法家我妻榮対中華民国民法典的注解」(中国政法大学羅馬法与意大利法研究中心・教育部法制史研究重点基地ー中国政法大学法律研究院・意大利和中国“羅馬法背景下的中国法典化与法学人才培養研究中心・中国政法大学出版社 主辦『第四届 羅馬法、中国法与民法法典化国際研討会 論文集 (下)651-656頁、2009年10月。10月24,25日シンポジウムにおいて招待報告(25日))

(4)「我妻榮の中華民国民法典註解と満州国民法への言及 「新発見」資料の紹介を中心に」(『名古屋大学法政論集』255号(杉浦一孝教授退職記念論文集)、2014年3 月28日、183-198頁) (原稿+文書20件の残り12件)

(5)(学術講演)「『中華民国民法物権篇(下)』原稿」(上海交通大学凱原法学院、2014年5月20日)

(6)「我妻榮の中華民国民法典註解と満州国民法への言及 「発見」資料の紹介を中心に」((4)の改訂版。『中日民商法研究会第十三届 2014年大会プログラム 論文集』(中日民商法研究会、2014年9月、169-181頁)。中国語訳版として、「我妻榮的中華民国民法典注解及対”満州国”民法的提及 以”発現”資料的介紹為中心」(沈思明訳。『中日民商法研究会第十三届 2014年大会プログラム 論文集』(中日民商法研究会、2014年9月、182-191頁)。2014年9月3日報告。中国・重慶・西南政法大学

(7)「我妻榮的中華民国民法典注解及対“満洲国”民法的提及-以“発現”資料的 介紹為中心」(翻訳:張丹)(渠濤主編『中日民商法研究』第十四巻、2015年9月、369-380頁)(6)の改訂版)

 

当日の様子

当日は、オンラインと対面参加者を合わせて86名の参加があった。

2024年1月18日髙見澤教授最終研究発表会2024年1月18日髙見澤教授最終研究発表会
2024年1月18日髙見澤教授最終研究発表会2024年1月18日髙見澤教授最終研究発表会

2024年1月18日髙見澤教授最終研究発表会

開催情報

日時: 2024年1月18日(木) 14時15分〜15時45分

会場: 東京大学東洋文化研究所大会議室(3階)+オンライン(Zoom)

発表者:髙見澤 磨(東京大学東洋文化研究所教授)

題目:我妻榮氏原稿『中華民国民法物権(下)』の整理について

司会:額定其労(東京大学東洋文化研究所准教授)

使用言語:日本語



登録種別:研究活動記録
登録日時:MonJan2211:48:082024
登録者 :髙見澤・キム・多田
掲載期間:20240123 - 20240423
当日期間:20240118 - 20240118