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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 公海に関する条約(公海条約)

[場所] ジュネーヴ
[年月日] 1958年4月29日作成,1962年9月30日効力発生,1968年4月26日国会承認
[出典] 外務省条約局,主要条約集(昭和52年版),1019−1040頁.
[備考] 
[全文]

公海に関する条約

昭和三十三年四月二十九日 ジュネーヴで作成
昭和三十七年九月三十日 効力発生
昭和四十三年四月二十六日 国会承認
昭和四十三年五月二十八日 加入の閣議決定
昭和四十三年六月十日 加入書の寄託
昭和四十三年六月二十一日 公布及び告示(条約第一〇号)
昭和四十三年七月十日 我が国について効力発生

この条約の当事国は、

公海に関する国際法の規則を法典化することを希望し、

千九百五十八年二月二十四日から四月二十七日までジュネーヴで開催された海洋法に関する国際連合の会議が、国際法の確立した原則を一般的に宣言しているものとして次の規定を採択したことを認めて、

次のとおり協定した。

第一条

「公海」とは、いずれの国の領海又は内水にも含まれない海洋のすべての部分をいう。

第二条

公海は、すべての国民に開放されているので、いかなる国も、公海のいずれかの部分をその主権の下におくことを有効に主張することができない。公海の自由は、この条約の規定及び国際法の他の規則で定める条件に従つて行使される。この公海の自由には、沿岸国についても、非沿岸国についても、特に次のものが含まれる。

(1) 航行の自由

(2) 漁獲の自由

(3) 海底電線及び海底パイプラインを敷設する自由

(4) 公海の上空を飛行する自由

これらの自由及び国際法の一般原則により承認されたその他の自由は、すべての国により、公海の自由を行使する他国の利益に合理的な考慮を払つて、行使されなければならない。

第三条

無海岸国は、沿岸国と同等の条件で海洋の自由を享有するために、自由に海洋に出入することができるものとする。このため、海洋と無海岸国との間にある国は、その無海岸国との合意により、かつ、現行の国際条約の規定に従い、

(a) 無海岸国に対し、相互主義に基づいて、自国の領域の自由な通過を許与し、また、

(b) 無海岸国の旗を掲げる船舶に対し、海港への出入及びその使用に関して、自国の船舶又は第三国の船舶に与えている待遇と同等の待遇を許与するものとする。

海洋と無海岸国との間にある国は、自国及び無海岸国がまだ現行の国際条約の当事国でない場合には、無海岸国との合意により、沿岸国又は通過国の権利及び無海岸国の特殊性を考慮して、通過の自由及び港における同等の待遇に関連するすべての問題を解決するものとする。

第四条

沿岸国であるかどうかを問わず、いずれの国も、自国の旗を掲げる船舶を公海において航行させる権利を有する。

第五条

各国は、船舶に対する国籍の許与、自国の領域内における船舶の登録及び自国の旗を掲げる権利に関する条件を定めるものとする。船舶は、その旗を掲げる権利を有する国の国籍を有する。その国と当該船舶との間には、真正な関係が存在しなければならず、特に、その国は、自国の旗を掲げる船舶に対し、行政上、技術上及び社会上の事項について有効に管轄権を行使し、及び有効に規制を行なわなければならない。

各国は、自国の旗を掲げる権利を許与した船舶に対し、その旨の文書を発給するものとする。

第六条

船舶は、一国のみの旗を掲げて航行するものとし、国際条約又はこの条約に明文の規定がある特別の場合を除き、公海においてその国の排他的管轄権に服するものとする。船舶は、所有権の現実の移転又は登録の変更の場合を除き、航海中又は寄港中にその旗を変更することができない。

二以上の国の旗を適宜に使用して航行する船舶は、そのいずれの国の国籍をも第三国に対して主張することができないものとし、また、このような船舶は、国籍のない船舶とみなすことができる。

第七条

前諸条の規定は、政府間機関の公務に使用され、かつ、その機関の旗を掲げる船舶の問題に影響を及ぼすものではない。

第八条

公海上の軍艦は、旗国以外のいずれの国の管轄権からも完全に免除される。

この条約の適用上、「軍艦」とは、一国の海軍に属する船舶であつて、その国の国籍を有する軍艦であることを示す外部標識を掲げ、政府によつて正式に任命されてその氏名が海軍名簿に記載されている士官の指揮の下にあり、かつ、海軍の紀律に服する乗組員が配置されているものをいう。

第九条

国が所有し又は運航する船舶で政府の非商業的役務にのみ使用されるものは、公海において旗国以外のいずれの国の管轄権からも完全に免除される。

第十条

いずれの国も、自国の旗を掲げる船舶について、特に次のことに関し、海上における安全を確保するために必要な措置を執るものとする。

(a) 信号の使用、通信の維持及び衝突の防止

(b) 船舶における乗組員の配乗及びその労働条件。この場合において、労働に関して適用される国際文書を考慮に入れるものとする。

(c) 船舶の構造、設備及び堪航性{堪にたんとルビ}

各国は、1の措置を執るにあたり、一般に受諾されている国際的基準に従うものとし、また、この基準の遵守を確保するために必要な手段を執るものとする。

第十一条

公海上の船舶につき衝突その他の航行上の事故が生じた場合において、船長その他当該船舶に勤務する者の刑事上又は懲戒上の責任が問われるときは、これらの者に対する刑事上又は懲戒上の手続は、当該船舶の旗国又はこれらの者が属する国の司法当局又は行政当局においてのみ執ることができる。

懲戒上の問題に関しては、船長免状その他の資格又は免許の証明書を交付した国のみが、交付された者がその国の国民でない場合においても、法律上の正当な手続を経てそれらを取り消す権限を有する。

船舶の拿捕{拿にだとルビ}又は抑留は、調査の手段としても、旗国の当局以外の当局が命令してはならない。

第十二条

いずれの国も、自国の旗を掲げて航行する船舶の船長に対し、船舶、乗組員又は旅客に重大な危険を及ぼさない限度において次の措置を執ることを要求するものとする。

(a) 海上において生命の危険にさらされている者を発見したときは、その者に援助を与えること。

(b) 援助を必要とする旨の通報を受けたときは、当該船長に合理的に期待される限度において、可能な最高速力で遭難者の救助におもむくこと。

(c) 衝突したときは、相手の船舶並びにその乗組員及び旅客に援助を与え、また、可能なときは、自己の船舶の名称、船籍港及び寄港しようとする最も近い港を相手の船舶に知らせること。

いずれの沿岸国も、海上における安全に関する適切かつ実効的な捜索及び救助の機関の設置及び維持を促進し、また、状況により必要とされるときは、このため、相互間の地域的取極により隣接国と協力するものとする。

第十三条

いずれの国も、自国の旗を掲げることを認めた船舶による奴隷の運送を防止し及び処罰するため、並びに奴隷の運送のために自国の旗が不法に使用されることを防止するため、実効的な措置を執るものとする。いずれの船舶(旗国のいかんを問わない。)に避難する奴隷も、避難したという事実によつて自由となる。

第十四条

すべての国は、可能な最大限度まで、公海その他いずれの国の管轄権にも服さない場所における海賊行為の抑止に協力するものとする。

第十五条

海賊行為とは、次の行為をいう。

(1) 私有の船舶又は航空機の乗組員又は旅客が私的目的のために行なうすべての不法な暴力行為、抑留又は略奪行為であつて次のものに対して行なわれるもの

(a) 公海における他の船舶若しくは航空機又はこれらの内にある人若しくは財産

(b) いずれの国の管轄権にも服さない場所にある船舶、航空機、人又は財産

(2) 当該船舶又は航空機を海賊船舶又は海賊航空機とするような事実を知つてその船舶又は航空機の運航に自発的に参加するすべての行為

(3) (1)又は(2)に規定する行為を扇動し又は故意に助長するすべての行為

第十六条

第十五条に定義する海賊行為であつて、乗組員が反乱を起こして支配している軍艦又は政府の船舶若しくは航空機が行なうものは、私有の船舶が行なう行為とみなされる。

第十七条

船舶又は航空機であつて、これを実効的に支配している者が第十五条に規定するいずれかの行為を行なうために使用することを意図しているものは、海賊船舶又は海賊航空機とみなされる。前記のいずれかの行為を行なうために使用された船舶又は航空機で、当該行為につき有罪とされる者により引き続き支配されているものについても、同様とする。

第十八条

船舶又は航空機は、海賊船舶又は海賊航空機となつた場合にも、その国籍を保持することができる。国籍の保持又は喪失は、当該国籍を与えた国の法律によつて決定される。

第十九条

いずれの国も、公海その他いずれの国の管轄権にも服さない場所において、海賊船舶、海賊航空機又は海賊行為によつて奪取され、かつ、海賊の支配下にある船舶を拿捕{拿にだとルビ}し、及び当該船舶又は航空機内の人又は財産を逮捕し又は押収することができる。拿捕{拿にだとルビ}を行なつた国の裁判所は、課すべき刑罰を決定することができ、また、善意の第三者の権利を尊重することを条件として、当該船舶、航空機又は財産について執るべき措置を決定することができる。

第二十条

海賊行為の嫌疑に基づく船舶又は航空機の拿捕{拿にだとルビ}が十分な根拠なしに行なわれた場合には、拿捕{拿にだとルビ}を行なつた国は、その船舶又は航空機がその国籍を有する国に対し、その拿捕{拿にだとルビ}によつて生じたいかなる損失又は損害についても責任を負う。

第二十一条

海賊行為を理由とする拿捕{拿にだとルビ}は、軍艦若しくは軍用航空機により、又は政府の公務に使用されているその他の船舶若しくは航空機でこのための権限を与えられたものによつてのみ行なうことができる。

第二十二条

条約上の権限に基づく干渉行為の場合を除き、公海において外国商船に遭遇した軍艦がその商船を臨検することは、次のいずれかのことを疑うに足りる十分な根拠がない限り、正当と認められない。

(a) その船舶が海賊行為を行なつていること。

(b) その船舶が奴隷取引に従事していること。

(c) その船舶が外国の旗を掲げているか又はその船舶の旗を示すことを拒否したが、実際にはその軍艦と同一の国籍を有すること。

軍艦は、1(a)、(b)又は(c)に定める場合において、当該船舶がその旗を掲げる権利を確認することができる。このため、軍艦は、嫌疑がある船舶に対し士官の指揮の下にボートを派遣することができる。書類を検閲した後もなお嫌疑があるときは、軍艦は、その船舶内においてさらに検査を行なうことができるが、その検査は、できる限り慎重に行なわなければならない。

嫌疑に根拠がないことが証明され、かつ、臨検を受けた船舶が嫌疑を正当とするいかなる行為をも行なつていなかつた場合には、その船舶は、被つた損失又は損害に対する補償を受けるものとする。

第二十三条

沿岸国の権限のある当局は、外国船舶が自国の法令に違反したと信ずるに足りる十分な理由があるときは、その外国船舶の追跡を行なうことができる。この追跡は、外国船舶又はそのボートが追跡国の内水、領海又は接続水域にある時に開始しなければならず、また、中断されない限り、領海又は接続水域の外において引き続き行なうことができる。領海又は接続水域にある外国船舶が停船命令を受ける時に、その命令を発する船舶も同様に領海又は接続水域にあることは、必要でない。外国船舶が領海及び接続水域に関する条約第二十四条に定める接続水域にあるときは、追跡は、当該接続水域の設定によつて保護しようとする権利の侵害があつた場合に限り、行なうことができる。

追跡権は、被追跡船舶がその旗国又は第三国の領海に入ると同時に消滅する。

追跡は、被追跡船舶又はそのボート若しくは被追跡船舶を母船としてこれと一団となつて作業する舟艇が領海又は場合により接続水域にあることを追跡船舶がその場における実行可能な手段により確認しない限り、開始されたものとみなされない。追跡は、視覚的又は聴覚的停止信号を当該外国船舶が視認し又は聞くことができる距離から発した後にのみ、開始することができる。

追跡権は、軍艦若しくは軍用航空機又は政府の公務に使用されているその他の船舶若しくは航空機で特にこのための権限を与えられたもののみが行使することができる。

追跡が航空機によつて行なわれる場合には、

(a) 1から3までの規定を準用する。

(b) 停船命令を発した航空機は、船舶を自ら拿捕{拿にだとルビ}することができる場合を除き、自己が呼び寄せた沿岸国の船舶又は航空機が到着して追跡を引き継ぐまで、その船舶を自ら積極的に迫跡しなければならない。当該船舶が停船命令を受け、かつ、当該航空機又は追跡を中断することなく引き続き行なう他の航空機若しくは船舶によつて追跡されたのでない限り、当該航空機がその船舶を違反を犯したもの又は違反の疑いがあるものとして発見しただけでは、公海における拿捕{拿にだとルビ}を正当とするために十分ではない。

いずれかの国の管轄区域内で拿捕{拿にだとルビ}され、かつ、権限のある当局の審理を受けるためその国の港に護送される船舶は、事情により護送の途中において公海の一部を航行することが必要である場合に、そのような公海の航行のみを理由として釈放を要求することができない。

追跡権の行使が正当とされない状況の下に公海において船舶が停止され、又は拿捕{拿にだとルビ}されたときは、その船舶は、これにより被つた損失又は損害に対する補償を受けるものとする。

第二十四条

すべての国は、海水の汚濁の防止に関する現行の条約の規定を考慮に入れて、船舶若しくはパイプラインからの油の排出又は海底及びその下の開発及び探査により生ずる海水の汚濁の防止のための規則を作成するものとする。

第二十五条

すべての国は、権限のある国際機関が作成する基準及び規則を考慮に入れて、放射性廃棄物の廃棄による海水の汚染を防止するための措置を執るものとする。

すべての国は、放射性物質その他の有害な物質の使用を伴う活動により生ずる海水又はその上空の汚染を防止するための措置を執るにあたり、権限のある国際機関と協力するものとする。

第二十六条

すべての国は、公海の海底に海底電線及び海底パイプラインを敷設する権利を有する。

沿岸国は、海底電線又は海底パイプラインの敷設又は維持を妨げることができない。もつとも、沿岸国は、大陸棚の探査及びその天然資源の開発のために適当な措置を執る権利を有する。

海底電線又は海底パイプラインを敷設する国は、すでに海底に敷設されている電線又はパイプラインに妥当な考慮を払わなければならない。特に、既設の電線又はパイプラインを修理する可能性は、害してはならない。

第二十七条

すべての国は、自国の旗を掲げる船舶又は自国の管轄権に服する者が、故意又は過失により、電気通信を中断し、又は妨害することとなるような方法で、公海にある海底電線を損壊し、及び海底パイプライン又は海底高圧電線を同様に損壊することが処罰すべき犯罪であることを定めるために必要な立法措置を執るものとする。この規定は、そのような損壊を避けるために必要なすべての予防措置を執つた後に自己の生命又は船舶を守るという正当な目的のみで行動した者による損壊については、適用しない。

第二十八条

すべての国は、自国の管轄権に服する者で公海にある海底電線又は海底パイプラインの所有者であるものが、その電線又はパイプラインを敷設し又は修理するに際して他の電線又はパイプラインを損壊した場合に、修理の費用を負担すべきであることを定めるために必要な立法措置を執るものとする。

第二十九条

すべての国は、海底電線又は海底パイプラインの損壊を避けるためにいかり又は網その他の漁具を失つたことを証明することができる船舶の所有者に対し、その者が事前にあらゆる適当な予防措置を執つたことを条件として、その電線又はパイプラインの所有者により補償が行なわれることを確保するために必要な立法推置を執るものとする。

第三十条

この条約の規定は、すでに効力を有する条約その他の国際協定の当事国間においては、それらに影響を及ぼすものではない。

第三十一条

この条約は、国際連合及びそのいずれかの専門機関の加盟国並びにその他の国でこの条約の当事国となるように国際連合の総会が招請したものによる署名のため、千九百五十八年十月三十一日まで開放しておく。

第三十二条

この条約は、批准されなければならない。批准書は、国際連合事務総長に寄託するものとする。

第三十三条

この条約は、第三十一条に規定するいずれかの種類に属する国による加入のため、開放しておく。加入書は、国際連合事務総長に寄託するものとする。

第三十四条

この条約は、二十二番目の批准書又は加入書が国際連合事務総長に寄託された日の後三十日目の日に効力を生ずる。

この条約は、二十二番目の批准書又は加入書が寄託された後にこの条約を批准し又はこれに加入する国については、その国がその批准書又は加入書を寄託した日の後三十日目の日に効力を生ずる。

第三十五条

この条約が効力を生じた日から五年の期間を経過した後は、いずれの締約国も、国際連合事務総長にあてた書面による通告により、いつでもこの条約の改正のための要請を行なうことができる。

国際連合の総会は、1の要請に関連して執るべき措置がある場合には、その措置について決定を行なうものとする。

第三十六条

国際連合事務総長は、国際連合のすべての加盟国その他第三十一条に規定する国に次の事項を通報するものとする。

(a) 第三十一条、第三十二条又は第三十三条の規定に従つて行なわれるこの条約の署名及び批准書又は加入書の寄託

(b) 第三十四条の規定に従つてこの条約が効力を生ずる日

(c) 第三十五条の規定に従つて行なわれる改正の要請

第三十七条

この条約は、中国語、英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語の本文をひとしく正文とし、その原本は、国際連合事務総長に寄託するものとし、同事務総長は、第三十一条に規定するすべての国にその認証謄本を送付するものとする。

以上の証拠として、下名の全権委員は、このためそれぞれの政府から正当に委任を受け、この条約に署名した。

千九百五十八年四月二十九日にジュネーヴで作成した。